〜豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫) ―豊饒の海(三)

暁の寺』を読むきっかけは、インド・ベナレスの事が書かれているからという理由だったけれども、読み始めてすぐに、豊饒の海の一・二巻、『春の雪』『奔馬』から順を追って読まなかったことに少し後悔した。
重要らしき人物、松枝清顕と飯沼勲の事がよく分からないまま読まねばならない。
まあ、後から読めばいいか。『春の雪』は映画化されるし、是非とも読んでみたい。(サプリメントで一緒に摂りたい成分
さて、三島由紀夫は私にとって文章が冗長に感じて、これまで少し苦手だったのだけれども、この作品におけるインドの描写はとても素晴らしかった。


屍は次々と火に委ねられていた。縛めの縄は焼き切れ、赤や白の屍衣は焦げ失せて、突然、黒い腕がもたげられたり、屍体が寝返りを打つかのように、火中に身を反らしたりするのが眺められた。・・・・・
ここには悲しみはなかった。無情と見えるものはみな喜悦だった。輪廻転生は信じられているだけではなく、田の水が稲をはぐくみ、果樹が実を結ぶのと等しい、つねに目前にくりかえされる自然の事象にすぎなかった。

タイで「清顕の生まれ変わりだ」という幼い月光姫に出会い、インドで輪廻転生に出会い、その後輪廻転生の研究に没頭する本多だが、戦後、成熟した月光姫ジン・ジャンに対するねじれた欲望を抱いてゆく様はまた、壮絶だ。
認識できないところのジン・ジャンに恋し、覗きを行うが、覗きをすれば既知が増す。
「本多の欲望がのぞむ最終のもの、彼の本当に本当に見たいものは、彼のいない世界にしか存在しえない、ということだった。真に見たいものを見るためには、死なねばならないのである」という、認識と自殺の駆け引き、それとは関係なく颯爽と振舞う美しいジン・ジャン、他の人物もそれぞれアクが強くて面白い。

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)