〜安部公房

makiflat2005-03-14

安部公房の『カンガルー・ノート』を読んだ。
めくるめくシュールな世界を、病院の鉄製ベッドで駆け巡る物語である。
と言っても意味が分からないと思うが、とにかく面白かった!

文房具会社で働く主人公の足の脛に、ある日《かいわれ大根》が生えてくるところから、物語は始まる。もう、《かいわれ大根》ってだけでシュールですよね。
病院に行ったつもりが、何故かベッドごと動きだし、夢か現実か生きているのか死んでいるのかよく分からないままお話は進んでゆく。
その、夢にしては妙に現実っぽく、現実にしたらちょっと変(烏賊爆弾とか、賽の河原のオタスケ隊とか…)な世界の面白いこと。
主人公は、坑道に投げ込まれても烏賊爆弾が爆発寸前でも死んだ母親が出てきても、淡々と乗り越えていく。(いや、乗り越えるというよりももっと受身かな。)
がしかし!最後の最後に鏡の箱の中で自分の姿を見て、「ひどく脅えているようだ。ぼくも負けずに脅えていた。恐かった。」という、これが本当に切なかった。
あれだけめちゃめちゃやってて最後に恐いなんて・・・。

読後の満足感がすごく大きかった。文句なく5つ星。

〜垂れ目Bの歌〜
だれも人生のはじまりを憶えていない
だれも人生の終わりに
気付くことは出来ない
でも祭りははじまり
祭りは終わる
祭りは人生ではないし
人生は祭りではない
だから人さらいがやってくる
祭りがはじまるその日暮れ
人さらいがやってくる